誰でもお気軽にコメントどうぞ。過去記事や微妙に趣旨ずれてても気にしない系のかりょです。
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「……雨? それは星とは違うの?」
「違うよ。星は人を殺すけれども、雨は植物を育て人を潤すんだ」
そう言われても、降星世代の妹には全く想像が付かない。
「雨が降ると、どうなると思う?」
どうなるんだろう?
雨が降るという事は、星が降らないという事だ。これはスゴイ。スゴイ事だ。なんてとんでもないことを、兄は考えるのだろう。
「全然分からないよ」
「だめ、考えて」
いじめられたかのように、妹は困った顔をした。
「僕らにはお金はない。身分も土地もない。僕らにできる事は考える事だけなんだ。何もせずに泣く事だけは絶対にだめだ」
妹は兄に応えたくて、必死で考えた。
「星が降らないなら……安心して外を歩ける」
「そう!」
「走れるし、寝転ぶことだってできる」
「いいぞ、その調子だ!」
「皆で手をつないで、抱き合ってキスだってできるよ!」
「よくやった!」
兄は優しく妹を抱きしめた。褒められて、妹は誇らしさで胸がパンパンになった。
「僕は考える事をやめない」
兄はどこか遠くをまっすぐ見つめて言った。
「僕は決して、生涯、黙って泣いたりしない」
兄は一生、その通りに生きた。
話をしたその夜、兄妹たちの居た防空壕に星が降って、妹は片足を、兄は命を失ったのだ。
※
「隊長、決断を」
部下に急かされて妹はハッとした。一瞬、懐かしい約束が脳裏を過った。
ただひたすらに考え、そして考えた事を話し続ける内に、妹に十年が刻まれた。
泣かない女。鉄の反乱者。片足の女隊長。
片田舎の防空壕から救出された小娘が、とうとう、星を降らすこの兵器の足元までたどり着いたのだ。
笑わない鉄の隊長は、しかし内心は重責に押しつぶされそうだ。
でも、彼女は決して考えるのをやめない。兄と約束したのだから。
あらゆる可能性を考えて、考えて、考え抜いた。その結論はすでに出てる。
あと必要な物は、それが間違っていた時の全ての責任を背負う覚悟だけだ。
「……構えろ! 右から三番目を撃て!」
「はい!」
マズルフラッシュから着弾まで、永遠とも思えるほどの時間が過ぎた。
ごく軽い音がして、だが、それだけだった。
失敗したのだ、と誰もが、妹さえもが思った。
だが。
ぶるり、と巨大な機械が震えた。ぐらぐら、と揺れ、そして。
ゆっくりと兵器は地表に落ちて来た。接地面から天上へ、兵器の表面を波が駆け抜け、そしてあちこちがパチパチと火花を立て、自重に押しつぶされるように崩壊していく。
あとから音が来た。
兵士たちが身を伏せ、衝撃波に揺さぶられる中を、妹は義足で戦車をつかみ、片手で顔を覆って耐え抜いた。
降星世代。
時代の名前さえ変えるほど人の生き方を支配した巨大兵器は、撃ちぬかれたその、たったひとつの弱点である蟻穴から、とうとう崩壊した。
砕けて壊れて燃え尽きて、やっと沈黙した。
ぽつ、ぽつぽつ。 反乱軍を何かが叩いた。見上げたら、それは水滴だった。
その名前を妹は知っている。
それこそが、雨粒だった。降星世代に、はじめて、星以外のものが降った。
喝さいがあがった。
人々は初めて見る雨の中、狂ったように笑い、抱き合いキスをして、走り回り快哉を叫び、何も恐れずに堂々と寝転んだ。
「あの時の質問に、やっと答えられるよ」
妹は雨の降る空を、ただじっと見上げた。
「雨が降ったら……泣いても誰にも気づかれないで済むんだ」
泣かない女は、雨の中、しばらく黙って泣いた。
そして、不意に、手にした杖で戦車をガンガンと叩いた。
「いつまでもはしゃぐなお前たち! さあ、後始末だ!」
鉄の女に率いられた兵士たちは、飛び上がって走り始めた。
もう星は降らない。
ついに時代の名前を変える事が出来たのだ。
---------------------------------------------------
おハルさん主催の「#台詞交換遊び」に参加させて頂きました!
今回のテーマは「雨」。
テーマに沿った台詞を持ち寄り、それをあみだで交換して、各自SSを作る……という遊びです。
私は「雨が降ったらどうなると思う?」をいただきましたー!
700文字程度まで、ということで、参加時はこれを4.5ツイートほどに縮めました。
が、フルバージョンが見たいという声にお応えして発掘してきたのに、加筆訂正しましたー。
これで1400文字ちょいですね?! 長いな!
なかなか普段はこういった作り方をしないので、面白かったですー。
「違うよ。星は人を殺すけれども、雨は植物を育て人を潤すんだ」
そう言われても、降星世代の妹には全く想像が付かない。
「雨が降ると、どうなると思う?」
どうなるんだろう?
雨が降るという事は、星が降らないという事だ。これはスゴイ。スゴイ事だ。なんてとんでもないことを、兄は考えるのだろう。
「全然分からないよ」
「だめ、考えて」
いじめられたかのように、妹は困った顔をした。
「僕らにはお金はない。身分も土地もない。僕らにできる事は考える事だけなんだ。何もせずに泣く事だけは絶対にだめだ」
妹は兄に応えたくて、必死で考えた。
「星が降らないなら……安心して外を歩ける」
「そう!」
「走れるし、寝転ぶことだってできる」
「いいぞ、その調子だ!」
「皆で手をつないで、抱き合ってキスだってできるよ!」
「よくやった!」
兄は優しく妹を抱きしめた。褒められて、妹は誇らしさで胸がパンパンになった。
「僕は考える事をやめない」
兄はどこか遠くをまっすぐ見つめて言った。
「僕は決して、生涯、黙って泣いたりしない」
兄は一生、その通りに生きた。
話をしたその夜、兄妹たちの居た防空壕に星が降って、妹は片足を、兄は命を失ったのだ。
※
「隊長、決断を」
部下に急かされて妹はハッとした。一瞬、懐かしい約束が脳裏を過った。
ただひたすらに考え、そして考えた事を話し続ける内に、妹に十年が刻まれた。
泣かない女。鉄の反乱者。片足の女隊長。
片田舎の防空壕から救出された小娘が、とうとう、星を降らすこの兵器の足元までたどり着いたのだ。
笑わない鉄の隊長は、しかし内心は重責に押しつぶされそうだ。
でも、彼女は決して考えるのをやめない。兄と約束したのだから。
あらゆる可能性を考えて、考えて、考え抜いた。その結論はすでに出てる。
あと必要な物は、それが間違っていた時の全ての責任を背負う覚悟だけだ。
「……構えろ! 右から三番目を撃て!」
「はい!」
マズルフラッシュから着弾まで、永遠とも思えるほどの時間が過ぎた。
ごく軽い音がして、だが、それだけだった。
失敗したのだ、と誰もが、妹さえもが思った。
だが。
ぶるり、と巨大な機械が震えた。ぐらぐら、と揺れ、そして。
ゆっくりと兵器は地表に落ちて来た。接地面から天上へ、兵器の表面を波が駆け抜け、そしてあちこちがパチパチと火花を立て、自重に押しつぶされるように崩壊していく。
あとから音が来た。
兵士たちが身を伏せ、衝撃波に揺さぶられる中を、妹は義足で戦車をつかみ、片手で顔を覆って耐え抜いた。
降星世代。
時代の名前さえ変えるほど人の生き方を支配した巨大兵器は、撃ちぬかれたその、たったひとつの弱点である蟻穴から、とうとう崩壊した。
砕けて壊れて燃え尽きて、やっと沈黙した。
ぽつ、ぽつぽつ。 反乱軍を何かが叩いた。見上げたら、それは水滴だった。
その名前を妹は知っている。
それこそが、雨粒だった。降星世代に、はじめて、星以外のものが降った。
喝さいがあがった。
人々は初めて見る雨の中、狂ったように笑い、抱き合いキスをして、走り回り快哉を叫び、何も恐れずに堂々と寝転んだ。
「あの時の質問に、やっと答えられるよ」
妹は雨の降る空を、ただじっと見上げた。
「雨が降ったら……泣いても誰にも気づかれないで済むんだ」
泣かない女は、雨の中、しばらく黙って泣いた。
そして、不意に、手にした杖で戦車をガンガンと叩いた。
「いつまでもはしゃぐなお前たち! さあ、後始末だ!」
鉄の女に率いられた兵士たちは、飛び上がって走り始めた。
もう星は降らない。
ついに時代の名前を変える事が出来たのだ。
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おハルさん主催の「#台詞交換遊び」に参加させて頂きました!
今回のテーマは「雨」。
テーマに沿った台詞を持ち寄り、それをあみだで交換して、各自SSを作る……という遊びです。
私は「雨が降ったらどうなると思う?」をいただきましたー!
700文字程度まで、ということで、参加時はこれを4.5ツイートほどに縮めました。
が、フルバージョンが見たいという声にお応えして発掘してきたのに、加筆訂正しましたー。
これで1400文字ちょいですね?! 長いな!
なかなか普段はこういった作り方をしないので、面白かったですー。
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