誰でもお気軽にコメントどうぞ。過去記事や微妙に趣旨ずれてても気にしない系のかりょです。
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「……「ばれんたいん」のお返しは何をしたらいいんだ?」
……と、久しぶりに牡鹿亭に顔を出したサーシャが聞くと、女亭主のサンドラはやれやれと首を振って、
「ラビへのお返しかい?」
「ああ。……ラビがサンドラにチョコの作り方を教わったという話を聞いた。
ならば、その返礼のことも、サンドラに聞けばわかると思った」
この面倒見のいい姉御なら、文句は言っても最終的には教えてくれるだろうと読んでのことだった。
予想通り、サンドラは御馳走様だねえと言いつつも、
「バレンタインはチョコだけども、ホワイトデーはこれと言った決まりはないのさ。良くあるのは、キャンディーとか、マシュマロウ、クッキーなんかだろうね」
「……それは菓子類か? 作ったことがないんだが」
サーシャは真顔で困った。
いわゆる「まるごと焼いて塩を振る」「水にぶっこんで煮込む」的な男の料理なら普段からしているが、菓子類は火加減や分量など、相当困難な物だと聞いている。
無論、ラビの為なら出来るし、習えばなんとか、とは思うが……。
「そうだねえ。山で採れる珍しい物で、何か甘い物はないのかい?」
「蜂の巣なら、」
「……悪いことは言わないから、それはやめておきな」
音速却下されて、サーシャは瞬きした。
もしかして、果物や甘草の方が良かったのだろうか。
「それとも蜜蟻の方が、」
「そいつもやめときな」
またもや却下された。
都会人は色々と難しい。
「女なら、装飾品や花、縫いぐるみなんかでもいいんだけどね。
あのラビにそういうものは……まあ、似合うっちゃ似合うだろうが」
サーシャは、お花畑でシュガーバニーと戯れるラビを想像してみた。
……確かに見た目だけならよく似合っている。
ラビは、事情を知らない者には、声変わりするかどうかという年頃の少年に見えるだろう。やわらかな髪に人懐っこい大きな鳶色の目が実に印象的だ。
サーシャとの身長差は25cm。並んでいたら、似ていない兄弟か弟子あたりに間違われることもある。
ところがどっこい、そのラビの正体は齢三ケタになろうかというジジイである。
このサンドラの若い頃(それが何年前かは聞いてはならない)から、今の姿のままだというのだから、人間の常識をぶっ壊している。
恩も恨みもあちこちに積み重ねているようで、町の中でさえ定まった住所を持たない程だ。
「……それならさ。
別に形あるものでなくてもいいんじゃないかい? チューとか」
最終的に、サンドラはそんなことを言い始めた。
「……それはもうした」
「はいはい、御馳走様」
それ以外の何があるだろうと、サーシャは赤くなってそっぽ向きながら考えた。
※
「サーシャ、何をしてくれるの?」
外見通りの少年のような笑顔で嬉しそうに聞いてくるラビに、そこに座ってくれと、サーシャは切株を示した。
ここは町外れの木立。サーシャが宿代をケチる時によく野宿する辺りだ。
木々が途切れて空が覗き、静かで明るい日差しが降り注いでいる。
「あまり期待はしないでほしいんだが」
サーシャの肩の上には緑色のインコが。弓用の籠手を着けた左腕には、フクロウがとまっている。
鳥の言葉で彼らに話しかけると、インコはノリノリの高い声でピュイリリと鳴き始め、フクロウは眠そうな低い声でホウ、ホウとリズムをとりはじめた。
それらの鳴き声にあわせ、サーシャはテノールの声で歌い始めた。
「見えない時は 空に想う
同じ月の下に 君もいるのか
陽を横切る あの翼を
君も見ているか」
……最初は、丁度いいタイミングで牡鹿亭に顔を出したニキータに、伴奏を頼んだのだ。
しかし、あわなかった。謎の破壊的不協和音が、牡鹿亭のガラスコップを割り砕き、怒ったサンドラに牡鹿亭から叩き出されたのだ。
……普段は風や木擦れの音しか聞いていないサーシャが、音階を解っていないせいなのか。ニキータが即興でアレンジを加え過ぎているせいなのか。
ともかく、これでは駄目だと見上げた先に鳥使いのマフテがいたのだった。
「傍にいれば 君を想う
ここがどれほど 暖かく
君がどれほど 優しくて
おれを癒して くれているかを」
楽譜なしの即興の歌声に、いつの間にか野鳥が集まってあいの手をいれ、仔リスが枝を走りまわっては、木の葉や実を落とした。
やがて歌声は木立と落ち葉の中に吸い込まれて行った。
「……ラビが、おれを一番だと言ってくれて、うれしかった。
傍に居ると言ってくれて、うれしかった」
歌を終えてラビに近づき、サーシャはそう言った。
ハイドが基本性能の弓士の足は、枯れ葉を踏んでも音をたてない。
「ラビのくれたチョコはおいしかった。
ラビが好き。大好きだ。ずっと居てほしい」
サーシャは身をかがめて、柔らかいラビの髪に顔を寄せ、額に唇を落とした。
くすぐったそうなラビの笑い声を聞きながら、その肩を抱き寄せた。
*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*
蕎麦様のバレンタインSS↑のお返し。
遅くなってすみませんっ。
イラストは、あれだ。頂いたSSを読み返していたら、手が勝手に。
愛想のないサーシャですが、今後もよろしくお願いします。
……と、久しぶりに牡鹿亭に顔を出したサーシャが聞くと、女亭主のサンドラはやれやれと首を振って、
「ラビへのお返しかい?」
「ああ。……ラビがサンドラにチョコの作り方を教わったという話を聞いた。
ならば、その返礼のことも、サンドラに聞けばわかると思った」
この面倒見のいい姉御なら、文句は言っても最終的には教えてくれるだろうと読んでのことだった。
予想通り、サンドラは御馳走様だねえと言いつつも、
「バレンタインはチョコだけども、ホワイトデーはこれと言った決まりはないのさ。良くあるのは、キャンディーとか、マシュマロウ、クッキーなんかだろうね」
「……それは菓子類か? 作ったことがないんだが」
サーシャは真顔で困った。
いわゆる「まるごと焼いて塩を振る」「水にぶっこんで煮込む」的な男の料理なら普段からしているが、菓子類は火加減や分量など、相当困難な物だと聞いている。
無論、ラビの為なら出来るし、習えばなんとか、とは思うが……。
「そうだねえ。山で採れる珍しい物で、何か甘い物はないのかい?」
「蜂の巣なら、」
「……悪いことは言わないから、それはやめておきな」
音速却下されて、サーシャは瞬きした。
もしかして、果物や甘草の方が良かったのだろうか。
「それとも蜜蟻の方が、」
「そいつもやめときな」
またもや却下された。
都会人は色々と難しい。
「女なら、装飾品や花、縫いぐるみなんかでもいいんだけどね。
あのラビにそういうものは……まあ、似合うっちゃ似合うだろうが」
サーシャは、お花畑でシュガーバニーと戯れるラビを想像してみた。
……確かに見た目だけならよく似合っている。
ラビは、事情を知らない者には、声変わりするかどうかという年頃の少年に見えるだろう。やわらかな髪に人懐っこい大きな鳶色の目が実に印象的だ。
サーシャとの身長差は25cm。並んでいたら、似ていない兄弟か弟子あたりに間違われることもある。
ところがどっこい、そのラビの正体は齢三ケタになろうかというジジイである。
このサンドラの若い頃(それが何年前かは聞いてはならない)から、今の姿のままだというのだから、人間の常識をぶっ壊している。
恩も恨みもあちこちに積み重ねているようで、町の中でさえ定まった住所を持たない程だ。
「……それならさ。
別に形あるものでなくてもいいんじゃないかい? チューとか」
最終的に、サンドラはそんなことを言い始めた。
「……それはもうした」
「はいはい、御馳走様」
それ以外の何があるだろうと、サーシャは赤くなってそっぽ向きながら考えた。
※
「サーシャ、何をしてくれるの?」
外見通りの少年のような笑顔で嬉しそうに聞いてくるラビに、そこに座ってくれと、サーシャは切株を示した。
ここは町外れの木立。サーシャが宿代をケチる時によく野宿する辺りだ。
木々が途切れて空が覗き、静かで明るい日差しが降り注いでいる。
「あまり期待はしないでほしいんだが」
サーシャの肩の上には緑色のインコが。弓用の籠手を着けた左腕には、フクロウがとまっている。
鳥の言葉で彼らに話しかけると、インコはノリノリの高い声でピュイリリと鳴き始め、フクロウは眠そうな低い声でホウ、ホウとリズムをとりはじめた。
それらの鳴き声にあわせ、サーシャはテノールの声で歌い始めた。
「見えない時は 空に想う
同じ月の下に 君もいるのか
陽を横切る あの翼を
君も見ているか」
……最初は、丁度いいタイミングで牡鹿亭に顔を出したニキータに、伴奏を頼んだのだ。
しかし、あわなかった。謎の破壊的不協和音が、牡鹿亭のガラスコップを割り砕き、怒ったサンドラに牡鹿亭から叩き出されたのだ。
……普段は風や木擦れの音しか聞いていないサーシャが、音階を解っていないせいなのか。ニキータが即興でアレンジを加え過ぎているせいなのか。
ともかく、これでは駄目だと見上げた先に鳥使いのマフテがいたのだった。
「傍にいれば 君を想う
ここがどれほど 暖かく
君がどれほど 優しくて
おれを癒して くれているかを」
楽譜なしの即興の歌声に、いつの間にか野鳥が集まってあいの手をいれ、仔リスが枝を走りまわっては、木の葉や実を落とした。
やがて歌声は木立と落ち葉の中に吸い込まれて行った。
「……ラビが、おれを一番だと言ってくれて、うれしかった。
傍に居ると言ってくれて、うれしかった」
歌を終えてラビに近づき、サーシャはそう言った。
ハイドが基本性能の弓士の足は、枯れ葉を踏んでも音をたてない。
「ラビのくれたチョコはおいしかった。
ラビが好き。大好きだ。ずっと居てほしい」
サーシャは身をかがめて、柔らかいラビの髪に顔を寄せ、額に唇を落とした。
くすぐったそうなラビの笑い声を聞きながら、その肩を抱き寄せた。
*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*:--☆--:*
蕎麦様のバレンタインSS↑のお返し。
遅くなってすみませんっ。
イラストは、あれだ。頂いたSSを読み返していたら、手が勝手に。
愛想のないサーシャですが、今後もよろしくお願いします。
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