誰でもお気軽にコメントどうぞ。過去記事や微妙に趣旨ずれてても気にしない系のかりょです。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ソレンティアのサービス終了に伴い、日記を保存しようと思ったものの。
あまりの数の多さに、どこから手を付けていいか分からず!!!
とりあえず、小説だけこっちに移行しようかな?と作業なうです。
ソレンティア関連でない方に軽く用語説明。
【ソレンティア】 ……4世界唯一の魔法学校。4世界のどこでもない場所に存在する。別名「塔」。
魔法使いになるためには、ここで魔法を学ばねばならない。しかし、それには年齢制限など、数多くの制約が存在する。
全く文化の違う4世界どこの出身者であっても言葉が通じる。
4世界からソレンティアへ来ることは、魔法使い候補(=資質を持つ者=ルティア)ならば可能だが、ソレンティアから出身世界以外の別の世界へ行く事は不可能。
【魔法使い】 ……ソレンティアから紹介状を受けとった資質持つ者(ルティア)が、しかるべき学習と試練を乗り越え、卒業して初めて成る事が出来る(ルティアマスター)
【4世界】 ……人間界、獣人界、妖精界、機精界の4つ。それぞれの世界はソレンティアを介して、薄い関係を持つが、相互に深く接触することはない。
【ルーメペンナリアン】 ……「ルーメペンナに住まう者」の意味。ルーメペンナは獣人界の一国家。翼を持つ種族を多く輩出する。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
■1■ 身勝手な…
資料と応募要項の束を開いた魔法使いは、半分ほどで噴き出し、最後まで読み通す頃には堪えきれないといった様子で笑いだしていた。
「異世界での学習が、しかもまだルティアマスターではない生徒に許されるなんて、私がいたころより、ずいぶん規則が緩くなったと思っていたけれど……全くもって、この決まりを決めた者は、これだけ厳守事項を作れば、誰も応募しないと思ったに違いないね。
だが、現にここにいるということは、君はずいぶんな優等生で、とんでもなく面白みのない学園生活を送って来たに違いない」
壮年の魔法使いアリシエンテスは、そう言ってクスクスと笑った。
返事が出来ないエスカーラ・ヴェルデが困っていると、魔法使いは、いいから、と手を振った。
「この建物内なら、はっきり思い浮かべた事なら、私に通じるようにしてある。私が君の保護者に選ばれたのも、それがあってのことだろうね。村の者は、私は妙に勘がいいくらいに思っているけれど。ああ、これは企業秘密だから喋るのはナシだよ」
エスカが神妙にうなづくのを見て、魔法使いは何が可笑しいのか、くっくっとまだ笑っていた。
「好きに出歩くことも、郷土料理を食べることも、それどころか話すことすら禁じられて……、それでも学びたかった目的とはなんだね?
ああ、こちらの資料か。……ふうむ、『天使とは何か?』か。また大きな学習目的だね。宗教的、歴史的、観念的……立場の分だけ答えはあるだろうが」
エスカが、自分が天使に興味を持った理由を考えると、魔法使いは、ああ、とうなづいた。
「なるほど。それは気になることだろう。私もこういう職なので、在校中は時々考えたよ。天使と、ルーメペンナリアンと、どちらが先かって」
魔法使いの目が、資料の一番最後の罰則関係を見ているのに気づいて、エスカはなぜ罰則が規定されていないのかと、ずっと疑問に思っていたことを思い浮かべた。
魔法使いは目をあげ、ふふっと笑った。
「罰則がないって明記されていることが、そんなに不思議かな? これは分かりやすい罠だよ。
……いいかい? 罰則がある決まりっていうのは、必ず破られるんだ」
なぜ?
「それは『罰則に耐えられれば、罪を犯してもいい』という許可になるからだよ。たとえば、罰則が、陸に上がった人魚姫のように、『一足ごとにナイフを踏むような激痛を受ける』ことだったとしよう。それは、逆にすると『激痛に耐えられれば、陸にあがって良い』ということになるんだ」
そこまで言われればエスカにも、分かった。
「つまり、罰則がなく、魔法使いなら厳守して当然とだけ決められているということは……。これを破ったら、罰則程度ではすまないってことだよ。君は、学校にいられなくなるし、今後魔法使いになることはないと、思った方がいい。おそらく、真綿にくるむように自主退学を迫られるだろう。……とはいえ、さすがに命を差し出せとまでは、言われないだろうけど」
そして、神父は資料を置いた。
「今回君に降りた許可は、試験的で限定的なものだという。君の行動次第では、今後、異世界学習について、更に厳しい制度が設けられるか、ことによっては、生徒の異世界学習が、一切許可されなくなることも考えられる。君の違反が、後輩たちから学習の機会を取り上げるんだ。心することだよ」
エスカが神妙にうなづくと、魔法使いは、さて、と区切って、立ち上がった。
「それでは、着いておいで。資料庫に案内してあげよう。文字は勉強してきたね?」
エスカはうなづき、さっそくその後へついていった。
期間は、たったの1週間。無駄に出来る時間は、エスカにはないのだ。
学校に行かないのは悪い子だ。
だからラス・イリュガーは走る。意地悪にも高く登っていく日に対して、
ちょっとは空気を読みなさいよ!と、呪いながら。
だが、学校の一番高い屋根のてっぺんが、夏の木の枝の間から見えてきた時に、授業開始の鐘の音が響いた。
あぁぁ。
ラスは、こんなにも一生懸命走ったことにがっかりして、足を緩めた。今日こそは、間に合わせようと思っていたのだが。
帰るわけにもいかず、といっても、授業の始まった教室の扉を開けて恥ずかしい思いをする気にもなれず、ラスは90度方向を変えて、学校と同じく村にひとつだけの教会のそばまで、やってきた。
教会には、不釣合いなほど大きな天使の絵がある。今の神父が知り合いのつてを手繰って取り寄せたものだ。あんまりにリアルで緻密なものだから、この画家は本物の天使に出会って、それをモデルに描いたのだという噂がまことしとやかに流れている程だ。
暖かい色合いのその絵を鑑賞するのが、最近のラスのお気に入りだった。
門をくぐっていつも開いている扉を入れば、手を洗う場所があり、その奥には左右に小部屋、一番奥に礼拝堂がある。ごく一般的な、十字の形をした教会だ。
ラスは、慣れた様子で中に入り、一直線に礼拝堂へ向かった。
……すると、そこに先客がいた。ラスよりかなり年上の、でも大人ではなく青年に見えた。
ラスは驚いて立ち止まった。子供は学校に、大人は町や畑にいる時間のはずだ。
黒髪にも肌にも、窓からの光が落ちて、黄金に見えた。一瞬、天使かと思ったラスだったが、振り向いたその顔を見て、その印象は、すぐにその正反対のものに変わった。
黄金に見間違えたのは黒。黒い肌に黒い目。悪魔だ。
だが、ラスは再びその想像を打ち消した。悪魔が出るには時間がちょっと早すぎるし、なんといってもここは教会だ。そんなはずはない。だからそれは人なんだろう。
「お兄さん、誰?」
聞かれたエスカは困り果てた。
こちらも、この時間なら人がいないだろうと見越して出てきたのだが、なんという計算違いだろうか。
少し首を傾げたまま、困惑顔で立ち尽くしていると、ラスはもう一度聞いた。
「言葉が分からないの?」
エスカは首を左右に振った。これは世界共通のしぐさだ。
「……話せないの?」
エスカは首を上下に振った。これも共通だ。
ラスは恐る恐る近づいてきた。
「じゃあ文字は読める? あたしはラスよ。こう書くの」
ラスは近くの長いすに、自分の綴りを指で書いて示した。
一方のエスカは、まるで禁止事項の確認をされているようだと、苦笑しきりだ。
エスカは一度うなづき、そして一度首を振った。
ラスも首をかしげて、その動作を理解しようとした。肯定、そして否定だ。
「読めるけど……書けないの?」
エスカはほっとしてうなづいた。
「変だわそんなの」
ラスがふくらむが、エスカにはどうしようもない。
「名前が分からないんだから『黒いの』でいいわよね?」
もうどうとでもしてくれ、とエスカはうなづいた。
■間章■ 応募要項1
●募集人数
【1名】
決定後にキャンセルの場合、募集停止。キャンセル待ちは出来ない。
●応募条件
・応募時点で、5年以上、在校していること
・卒業に足る単位・資格を取得済みで、一年以内の卒業が決定していること
・在学中に、ステルラのスクロールを5つ以上獲得していること
・応募時点より遡って、1年以上、無遅刻無欠席であること
・応募時点より遡って、3年以内に罰則を受けたことがないこと
(異性寮への訪問や、信号無視なども含む)
・掃除当番・雑務・教師手伝いを、今までに半年以上継続して行っており、一度も欠席がないこと
■2■ …優しさは誰も…
「黒いの」は、数日前から教会に泊まっている留学生だと、出会った日の晩にラスは家族から聞いた。
留学して学ぶようなものがここにあるとは、ラスには全く思えなかった。
「ぐろーばる化」だの、「わんあーす思想」だののことは、テレビで見たことはあるが、ここは田舎すぎて、そういった情勢からは取り残された村だ。
この村は中世のころからほとんど変わらない生活をしてきて、来年も再来年も十年後もそれは変わらないのだろうと、ラスは思っている。
とはいっても、すこしずつ変わっていくこともある。人の仕事を機械が代わりに行うようになり、世代を経るごとに少しずつ豊かになっていて、……おかげで、「ひきこもり」が許容されるようになっていることとか。
……少しの期待と共に、ラスが今日も教会の礼拝堂へ向かうと、エスカは昨日と同じ椅子に座って、重そうな本に目を通していた。
「こんにちは」
ラスが声をかけると、本に集中していたエスカは驚いて、顔をあげた。
「何を読んでいるの? 見てもいい?」
構わずラスが向かいに座ると、エスカは大人しく開いた本のページを見せた。
見開きの片側を下半分使った挿絵は、ダ・ヴィンチの「受胎告知」だった。美術書だ。
エスカの左右には、似たり寄ったりの分厚さの本が、積まれている。
右の山の積み方がそろっていないのは、読み終わった方だからだ。
「何の勉強をしているの?」
ラスが聞くと、エスカは絵の天使を、指先で円を描いて示した。
「だったら、こんな田舎じゃなくて、山の向こうの町へ行けばいいのに。美術館だってあるし、大きな教会だってあるわ」
エスカは苦笑して、答えに変えた。彼ももちろん、そう思わないではなかったが、これも選択権がないことのひとつだった。
そんなこととは知らないラスは、何か事情があることを、誤解を多分に含みながらも汲み取った。黒人差別は、人類の恥ずかしい歴史のひとつだ。それがいまだに根強く残っていることも。
再び視線を文字に落として、ページをめくりはじめたエスカを、ラスはじっと観察した。
まず驚いたのは、エスカの読む早さだ。ナナメ読みではないことは、視線の動き方から大体分かる。
ただ、時々つっかえる時がある。そういう時、エスカは数ページを戻ったり、国語辞典をめくったりして拙く乗り越える。
「その場合はね。こっちの意味よ。取り違えると、文章がまるっきり変わってくるでしょ」
見ていられずにラスが手を伸ばすと、エスカはビクリと手を引き、それから困ったような笑顔で、両手のひらを合わせて、謝罪のジェスチャーをした。
「……清廉の誓いでもしてるの? 女に触られるといけないとか?」
気を害しながらも、理屈の通った理由が欲しくて、ラスはそう聞いた。
エスカは首を振り、続いてうなづいた。
少し気分を持ち直して、ラスは手を引っ込めた。誓いではないけど、触られるといけない事情があるらしいと理解したのだ。ラスのことが嫌いなのではなくて。
もう一度謝罪するエスカを見て、ラスは鷹揚にうなづいた。
「あたし、もう大人よ。そのくらいで怒ったりしないわ。無礼な態度は許してあげる」
それなら無礼ついでにと、エスカは辞書をひきよせ、ラスに向けた。
ページをめくって、順に指差す単語は、
『なぜ』『ではない』『あなた』『行く』『学校』『?』
ラスは、ドキリとして、それからラスが家族にエスカのことを聞いたように、エスカも神父に、ラスのことを聞いたのだろうと、思い至った。
「行ってるわよ。走って。でも、どうしてもあとちょっとで間に合わないの。……きっと、学校があたしを嫌ってるんだわ」
エスカはラスを見つめ、そして再び辞書をめくった。
『あなた』『できる』『勉強』『それ』『です』『非常に』『幸運』
『存在する』『多く』『人々』『希望する』『勉強』
『しかし』『彼ら』『できない』『行く』『学校』
「あたしだって、そのくらい知ってるし、周りの大人たちにも耳タコで言われてるわよ! でも、どうしても行けないの」
エスカは、黙って静かにラスを見つめた。
『どのくらい』『ない』『行く』『学校』『?』
「ずっとよ。……もう3年くらいかしら」
『いつ』『行く』『学校』『?』
「分からないわよ! たぶん、もうずっとないかもしれないわ」
エスカが、きゅっと眉をひそめ、悲しげな表情をするのを見て、ラスはいたたまれない気持ちになって叫んだ。
「そんな顔したって、できないものは、できないんだもの! あたしだって頑張ってる! 本当に頑張ってるのよ! でもダメなの! この世に黒い肌の天使がいないように、どうしてもダメなことって、あるんだわ!」
エスカは、再びラスを見つめ、ラスが居心地悪さのあまりに立ち上がろうとしかけた時に、ふっとうつむいて、右手の中指にはまった簡素な指輪を見た。
そして、膝から本をおろし、立ち上がった。
■間章■ 応募要項2
●滞在日時・場所の決定
・滞在日時・場所は、生徒の学習内容を鑑み、監査委員会が決定する。
・最大滞在日数は、1週間。
・決定は、出発の1ヶ月前に対象生徒に知らされる。
・現地の言語や文字、マナーや振る舞いは、その期間に自力で習得すること。
・決定が変更されることはない。
●滞在場所で厳守すべきこと1
・監査委員会に提出した学習目的から、逸脱しないこと。
・飲食は、委員会より支給されるものに限る。
・現地で保護者として指名される魔法使いの命令を遵守し、その保護区域を離れないこと。
又、保護区域内であっても、指定された建造物の半径50mより外へ出てはならない。
・生徒は、毎日20時に、一日に起こった全ての出来事を、音声以外の方法で保護魔法使いに報告し、保護魔法使いは、それを委員会に提出すること。
・現地時間の夜21時までに就寝し、朝9時まで指定された寝室を出ないこと。
■3■ …救えない…
「君は本当は、学校に行きたくないんだ」
まずはその声に、ラスは驚いた。
それから、話せるのに今まで黙っていたことに、そして最後に言われた内容に、ラスは怒りで真っ赤になった。
「行きたいと……思ってるわ!」
「いいや。思っていない。思っていて、行けないはずがない」
「思っているけど、行けないから、苦しんでるのよ! 思っていなかったら、苦しむはずがないじゃない!!」
「苦しんでいる自分が好きなんだ。だから、苦しんでいたいんだ」
「…………!!」
ラスはのぼせた頭が、急速に青くなっていく気がした。
ラスだって、心のどこかで分かっていたのだ。
「学校に行くラス」は、いくらでも取替えの効く、目立たない、どうでもいい娘だ。
だが、「学校に行かないラス」は、この村でたったひとりの娘だ。
皆が学校や教会で、つまらない朗読や書き取りをしている間、ラスは家で絵を描いたり、木に登ったりできる。
皆が早起きして眠い目で通学している間、ラスは昼まで悠々と眠っていられる。
皆が明日に備えて早く寝るような時間に、ラスは遠慮なく遊んでいられる。
ラスだけが。……ラスだけが。
「……、……、、」
何度か口を開けかけては、出来ず、ラスは悔しさと恥ずかしさに拳を握って、顔をそらした。
その時だ。
エスカは両手でラスの肩を強く握ると、膝を折って視線を合わせて来た。
「学校なんて、いつでも行ける」
「……」
「君が今、しなきゃいけないのは、目の前にいる、知ったかぶりで偉そうなことを言う異邦人を、言い負かすことだ。君が今後、本当に学校へ行くかどうかなんて、後で決めればいい。だけど、今、君のことを嘘つきよばわりして、決め付けようとする他人を叩き潰して、君の心を守ることは、絶対に譲ってはいけない」
「……!」
ラスは戸惑って、エスカを見た。
ラスはエスカの事情など知らない。エスカが何を諦めて、何を諦めなかったのかなど、分かるはずもない。
ただ、
「君は、学校へ、行きたくない」
エスカが改めてそう言ったのを、
「私は学校へ行きたい!!」
ラスは体中の力と、声の全部を使って、否定した。
エスカは黙って、うなづいた。
鳥が鳴いた。静かだ。ただ叫んだだけで、全力疾走したように切れ切れになっていた息を、ラスは深呼吸で戻そうとした。
「じゃあ、今から行こう」
「え? どこへ?」
「学校に決まっているだろう」
「……もう遅いよ。とっくに始まってて……」
「そんなこと、諦める理由にならない。したいと思った時が、できる時だから」
エスカは、自分の右手に左の手の平を当て、今更ながらにわずか、逡巡した。
だが、1秒と待たずにそれを振り切ると、簡素な銀の指輪を、一思いに引き抜いた。
起こった変化に、ラスが息を呑む。
エスカの背に広がったのは、人など余裕で包めそうな、大きくて真っ白い翼だった。
「俺が送ってあげる。行こう」
「黒……」
エスカは、ラスに手をのばしながら、首を傾げる。
「黒い肌の天使なんていないなんて、……言って、ごめんなさい」
エスカは少し目を開き、そして苦笑した。
「行っておいで」
どうしても鐘の音に間に合わなかった学校。
魔法にでもかけられたように、校門をくぐってしまったのは、つかの間の空中飛翔の興奮のせいだろうか。
だが、校舎の前で恐怖に駆られて立ち止まる。
振り向いたら、まだそこにエスカがいた。
一緒に来てくれたら、ここを入れるのにと、ラスは言いかけて、言葉を呑んだ。
子供扱いするなと、ラスはこの相手の前で見栄を張った。
いや、見栄ではないとラスは思った。
本当のことだ。ラスは、もう大人だ。保護者がいないと何も出来ないような、子供ではない。
この一歩を進めば、特別なラスはいなくなり、平凡なラスになってしまう。だが、そのことより、エスカに失望される方が、今のラスには嫌だった。
校舎の方へ向き直り、ぐっと腹に力を入れて、ラスは一歩を踏み出した。
■間章■ 応募要項3
●滞在場所で厳守すべきこと2
・委員会が指定した物以外の、いかなるものも、持ち込んではならない。
・委員会が許可した物以外の、いかなるものも、持ち出してはならない。
・生き物の殺生は、意図して行ってはならない。
・生徒は、指定された魔法具に、指定された変身魔法を込め、睡眠時や単独行動時も含め、常に現地人の姿を維持すること。
・魔法具は、生徒本人の魔力によって維持し、いかなる場合もはずしてはならない。
・その変身魔法以外の、いかなる魔法も使用してはならない。
・生徒は、現地でいかなる媒体にも、いかなる種類の文字も、記入してはならない。
又、本人の意思によるいかなる言葉も発してはならない。
・言葉以外の音声や、本人の意思によらないものについては、禁止まではされないが、可能な限り控えるものとする。
又、現地の映像保存機に映ることは、可能な限り避けねばならない。
・現地人には、魔法使いやソレンティア関係の一切を、知られてはならない。推測される行動も慎まねばならない。
・現地人との接触は可能なかぎり避け、肉体的接触においては一切行わないこと。
又、10人以上の現地人に、同時に観測されてはならない。
・やむなく現地人と遭遇した場合は、礼儀正しく振る舞うこと。
●罰則等
罰則等は設けられていない。
ソレンティアの生徒であり、魔法使いである以上、規則を厳守するのは当然であると規定する。
■エピローグ■ …か?
胸がいっぱいで、何から話したらいいか分からないままに、ただ、ラス・イリュガーは教会へ向けて走っていた。
教会の頂上が、夏の木の枝の間から見えてきた時に、教会の鐘の音が響いた。学校のそれとは違い、鈍いけれど落ち着く音だった。
今日一日、時間はあっという間に過ぎていった。
今朝くぐったばかりの教会の門へ、ラスは飛び込んだ
「黒いのいる?!」
ホウキを持っていたアリシエンテス神父は、驚いた顔をゆっくりと微笑みに変えた。
「いないよ」
「なんだ……いないの」
「学校はどうだったね?」
「どうして知ってるの?! 黒いのから聞いたの?」
「ああ、とても気にしてたよ」
ラスは、一息吸って叫んだ。
「もう最低最悪!」
「おやおや」
「授業はちんぷんかんぷんだし、教科書どころか、ノートも筆記用具までも、借りる始末よ!」
「ふむ」
「小太郎はやっぱり意地悪を言うし、イリューシャだって、あたしのことからかったわ! アスカは優しくしてくれたけども……あと、ティナスも、昔貸してたリボン、返してくれたけど」
「なるほど」
「本当に最悪だったけど……でも……」
「でも、何だい?」
ラスは、ちょっとまごついてから、横を向いていった。
「でも、明日も行くわ」
明日は行くわ、ではなくて。
「良かった。彼が、ここにいる権利を賭けただけのことは、あったようだね」
神父が何を言っているのか、ラスには良く分からなかった。
「ここにいる権利を賭けるって、どういうこと?」
「本当の姿を表しただろう、彼は。だから、帰らなければいけなくなったんだよ。元いたところに」
ラスは本当に、本当に驚いて、しばらく声を失った。
「黒いの、もういないの? 帰ってしまったの? ……次はいつ来るの?」
「もういないよ。そして、もう二度と来ない」
無情にも、神父はそう言いきった。
「……黒いのは……。天使様だったの? あたしを学校に行かせるために、遣わされてきたの?」
「……」
今までラスのどんな質問にも、すぐに答えてきた神父だったが、この質問には、珍しいことに少し考えたようだった。
「彼は、その為に遣わされたわけではないけれど……。君が無事に学校に行けたから、帰ったというのは事実だね」
「……じゃあ、あたしがこれからも学校に行き続ければ、黒いのがここにいた価値があるのね?」
「そう言えるね」
ラスは、なぜだかうるむ視界を床に落として、そして詰まる声で言った。
「だったら、あたし、これからも行くわ。一度だって休まないわ。そうしたら、黒いのにまた会えるかしら?」
「それは君次第だろうね」
ラスは、何度か深呼吸して、それからさりげなく袖で顔をこすって、神父を見上げた。
「今日はもう帰ります」
「よくお眠り。明日起きられるように」
「はい!」
罰則はなしとのことだったから、監査委員会にとっては、一時間立ちっぱなしで説教されることなど、罰則に当たらないということなのだろう。
エスカーラ・ヴェルデは、しびれる足と凝った首を回しながら、学科校舎に戻ってきた。
すると、クラスメイトの女子が入り口で、翼を広げて仁王立ちしていた。
「言っとくけど、あたし怒ってるんだよ。キミの行動、理解できないから!」
「……まあ、理解してもらえるとは思ってないけど」
どうやら、エスカのやったことについては、色々と筒抜けの様子だ。どこで知ったかなど聞くのはヤボというものだろう。なぜならここは、魔法学園なのだから。
肩をすくめてその横を通り過ぎると、彼女はチョコチョコと小走りに着いてきて、横から見上げてきた。
「ねえ、その子のこと、好きだったの?」
「違う。出会ったばかりの娘だったよ」
「だったら余計に理解できないよ! だって、どんなに願っても、許されない子がどれだけいると思ってるの? 好きでもない子のために、簡単に捨てられるなら、その権利、誰かに譲ってあげればよかったのに!」
最もな言い分だったが、エスカはそれを肯定するわけにはいかない。
「それとこれとは別の話だ。二度と出来なくて・今しなければならないことは何かと考えた結果、するべきことをして、そうじゃないことを捨てただけだ」
「そんな優しさは間違ってる」
エスカの返答は、バッサリ切り捨てられた。痛い所を突いてくるクラスメイトだ。
「治療幻惑科ではさ、優しさだけでは人を救えないと教わるだろう? でも、優しさだけで救えそうな時があったなら、行動しないのは勇気がないことだと思った」
「バカじゃないの。そんなこと言ってたら、命がいくつあってもたりないよ! 治幻科に必要なのは、勇気じゃなくて慎重さだよ。そして何重にも安全策をとることだよ」
口げんかにかけては、治療コースでは、幻惑コースにかないっこない。エスカは両手をあげて降参し、横を見た。
「もう終わっていて、変えようのないことで俺をいじめるのが、君の仕事なのか?」
「終わってないよ、キミの戦いは。……自主退学するって本気なの?」
そこで初めてエスカは、彼女が本当は、何に怒っていたのかを知った。
「皆を理解し守るのが、治療魔法使いの仕事だよ。そして、その治療魔法使いを守るのは、皆の仕事。……だけど、皆は治療魔法使いを、理解はできない。……できるのは、幻惑魔法使いなんだもの!」
「俺に言わせたがってる言葉が、やっと分かったよ」
彼女の、押し付けがましくてひとりよがりな親切に、エスカは苦笑した。
「助けてくれ。本当は退学したいわけじゃない。だけど、他の方法を知らないんだ。身勝手の責任を取らなければならないと思っているが……。自主退学以外に、方法があるならそれを知りたい。俺がどうしたらいいのか、教えて欲しい」
「最初からそう言えばいいのよ!」
身長の高いエスカを、アゴをそらしてまで強引に下目で見て、彼女は笑った。
■追章■
「我々は~~! 抗議するぅぅ~~~!!」
グラウンドの中央。
どこからか持ってきたみかん箱の上で、メガホンを持ったルーメペンナリアンが叫んでいる。
「治療幻惑科治療コース所属・ルーメ男子エスカーラ・ヴェルデが受けた処遇は、不適切であると主張する!」
当のエスカは、みかん箱の向こうで他人のフリをしようとするのに、熱中している。
が、みかん箱の上のルーメは、気にせずに主張を続けた。
「エスカたんに、許された権利【一週間の異世界学習】を羨み~! しかし、その困難な応募要項を知って諦め~! そして悔し紛れに祝福し~!
しかし! しかしながら!
女ごときにウツツを抜かして、その権利を諦めたエスカたんなんか~! タンスに足の小指をぶつければいいと思った生徒は~! 山ほどいると思われる~~!!!」
羞恥に耐え切れず、そのまま背を向けようとしたエスカの襟首に、みかん箱の上の人物は、先端がS状になった杖をひっかけた。
「だがしかぁぁぁし!!
自主退学というのは、重すぎる罰則だと思われる~!! なぜなら~! 応募要項の規約の、厳守すべきことの最後には、こう書かれている~!
すなわち!
【現地人と遭遇した場合は、礼儀正しく振る舞うこと。】!!
どうだろうか!!
エスカたんの今回の、アフォな所業は! この規約に従い~! 礼儀正しく振舞った結果だと考えられないだろうか~~!」
「そんな強引な」
振り下ろされる杖を、エスカは辛くも避けた。
「つまり!! エスカたんは! あくまで規約を守っていた! よって、放校処分には当たらないと~! ここに主張する~~~!!!
この主張に賛成する諸君は~! ここに署名してほしい~~~!!!」
そこまで言って、彼女はメガホンを顔から離すと、あたり一面にビラをばら撒いた。
困惑顔のエスカの上にも、ビラが何枚も降り注ぐ。
「身勝手な優しさは、人を救うのか! それとも自分を滅ぼすだけなのか! 諸君たち自身で、証明しようではないか~~~~!!」
--------------------------------------------------------------
Special Thanx!
この小説には、ソレンティアに実在する生徒の名前を使わせてもらっています。
使わせてもらったのは、名前だけで、それ以外の一切のものは関係ありません。
●ラス・イリュガー 主人公1
●エスカーラ・ヴェルデ 主人公2
■小太郎 エキストラ1
■イリューシャ エキストラ2
■アスカ エキストラ3
■ティナス エキストラ4
■アリシエンテ 神父
あまりの数の多さに、どこから手を付けていいか分からず!!!
とりあえず、小説だけこっちに移行しようかな?と作業なうです。
ソレンティア関連でない方に軽く用語説明。
【ソレンティア】 ……4世界唯一の魔法学校。4世界のどこでもない場所に存在する。別名「塔」。
魔法使いになるためには、ここで魔法を学ばねばならない。しかし、それには年齢制限など、数多くの制約が存在する。
全く文化の違う4世界どこの出身者であっても言葉が通じる。
4世界からソレンティアへ来ることは、魔法使い候補(=資質を持つ者=ルティア)ならば可能だが、ソレンティアから出身世界以外の別の世界へ行く事は不可能。
【魔法使い】 ……ソレンティアから紹介状を受けとった資質持つ者(ルティア)が、しかるべき学習と試練を乗り越え、卒業して初めて成る事が出来る(ルティアマスター)
【4世界】 ……人間界、獣人界、妖精界、機精界の4つ。それぞれの世界はソレンティアを介して、薄い関係を持つが、相互に深く接触することはない。
【ルーメペンナリアン】 ……「ルーメペンナに住まう者」の意味。ルーメペンナは獣人界の一国家。翼を持つ種族を多く輩出する。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
■1■ 身勝手な…
資料と応募要項の束を開いた魔法使いは、半分ほどで噴き出し、最後まで読み通す頃には堪えきれないといった様子で笑いだしていた。
「異世界での学習が、しかもまだルティアマスターではない生徒に許されるなんて、私がいたころより、ずいぶん規則が緩くなったと思っていたけれど……全くもって、この決まりを決めた者は、これだけ厳守事項を作れば、誰も応募しないと思ったに違いないね。
だが、現にここにいるということは、君はずいぶんな優等生で、とんでもなく面白みのない学園生活を送って来たに違いない」
壮年の魔法使いアリシエンテスは、そう言ってクスクスと笑った。
返事が出来ないエスカーラ・ヴェルデが困っていると、魔法使いは、いいから、と手を振った。
「この建物内なら、はっきり思い浮かべた事なら、私に通じるようにしてある。私が君の保護者に選ばれたのも、それがあってのことだろうね。村の者は、私は妙に勘がいいくらいに思っているけれど。ああ、これは企業秘密だから喋るのはナシだよ」
エスカが神妙にうなづくのを見て、魔法使いは何が可笑しいのか、くっくっとまだ笑っていた。
「好きに出歩くことも、郷土料理を食べることも、それどころか話すことすら禁じられて……、それでも学びたかった目的とはなんだね?
ああ、こちらの資料か。……ふうむ、『天使とは何か?』か。また大きな学習目的だね。宗教的、歴史的、観念的……立場の分だけ答えはあるだろうが」
エスカが、自分が天使に興味を持った理由を考えると、魔法使いは、ああ、とうなづいた。
「なるほど。それは気になることだろう。私もこういう職なので、在校中は時々考えたよ。天使と、ルーメペンナリアンと、どちらが先かって」
魔法使いの目が、資料の一番最後の罰則関係を見ているのに気づいて、エスカはなぜ罰則が規定されていないのかと、ずっと疑問に思っていたことを思い浮かべた。
魔法使いは目をあげ、ふふっと笑った。
「罰則がないって明記されていることが、そんなに不思議かな? これは分かりやすい罠だよ。
……いいかい? 罰則がある決まりっていうのは、必ず破られるんだ」
なぜ?
「それは『罰則に耐えられれば、罪を犯してもいい』という許可になるからだよ。たとえば、罰則が、陸に上がった人魚姫のように、『一足ごとにナイフを踏むような激痛を受ける』ことだったとしよう。それは、逆にすると『激痛に耐えられれば、陸にあがって良い』ということになるんだ」
そこまで言われればエスカにも、分かった。
「つまり、罰則がなく、魔法使いなら厳守して当然とだけ決められているということは……。これを破ったら、罰則程度ではすまないってことだよ。君は、学校にいられなくなるし、今後魔法使いになることはないと、思った方がいい。おそらく、真綿にくるむように自主退学を迫られるだろう。……とはいえ、さすがに命を差し出せとまでは、言われないだろうけど」
そして、神父は資料を置いた。
「今回君に降りた許可は、試験的で限定的なものだという。君の行動次第では、今後、異世界学習について、更に厳しい制度が設けられるか、ことによっては、生徒の異世界学習が、一切許可されなくなることも考えられる。君の違反が、後輩たちから学習の機会を取り上げるんだ。心することだよ」
エスカが神妙にうなづくと、魔法使いは、さて、と区切って、立ち上がった。
「それでは、着いておいで。資料庫に案内してあげよう。文字は勉強してきたね?」
エスカはうなづき、さっそくその後へついていった。
期間は、たったの1週間。無駄に出来る時間は、エスカにはないのだ。
学校に行かないのは悪い子だ。
だからラス・イリュガーは走る。意地悪にも高く登っていく日に対して、
ちょっとは空気を読みなさいよ!と、呪いながら。
だが、学校の一番高い屋根のてっぺんが、夏の木の枝の間から見えてきた時に、授業開始の鐘の音が響いた。
あぁぁ。
ラスは、こんなにも一生懸命走ったことにがっかりして、足を緩めた。今日こそは、間に合わせようと思っていたのだが。
帰るわけにもいかず、といっても、授業の始まった教室の扉を開けて恥ずかしい思いをする気にもなれず、ラスは90度方向を変えて、学校と同じく村にひとつだけの教会のそばまで、やってきた。
教会には、不釣合いなほど大きな天使の絵がある。今の神父が知り合いのつてを手繰って取り寄せたものだ。あんまりにリアルで緻密なものだから、この画家は本物の天使に出会って、それをモデルに描いたのだという噂がまことしとやかに流れている程だ。
暖かい色合いのその絵を鑑賞するのが、最近のラスのお気に入りだった。
門をくぐっていつも開いている扉を入れば、手を洗う場所があり、その奥には左右に小部屋、一番奥に礼拝堂がある。ごく一般的な、十字の形をした教会だ。
ラスは、慣れた様子で中に入り、一直線に礼拝堂へ向かった。
……すると、そこに先客がいた。ラスよりかなり年上の、でも大人ではなく青年に見えた。
ラスは驚いて立ち止まった。子供は学校に、大人は町や畑にいる時間のはずだ。
黒髪にも肌にも、窓からの光が落ちて、黄金に見えた。一瞬、天使かと思ったラスだったが、振り向いたその顔を見て、その印象は、すぐにその正反対のものに変わった。
黄金に見間違えたのは黒。黒い肌に黒い目。悪魔だ。
だが、ラスは再びその想像を打ち消した。悪魔が出るには時間がちょっと早すぎるし、なんといってもここは教会だ。そんなはずはない。だからそれは人なんだろう。
「お兄さん、誰?」
聞かれたエスカは困り果てた。
こちらも、この時間なら人がいないだろうと見越して出てきたのだが、なんという計算違いだろうか。
少し首を傾げたまま、困惑顔で立ち尽くしていると、ラスはもう一度聞いた。
「言葉が分からないの?」
エスカは首を左右に振った。これは世界共通のしぐさだ。
「……話せないの?」
エスカは首を上下に振った。これも共通だ。
ラスは恐る恐る近づいてきた。
「じゃあ文字は読める? あたしはラスよ。こう書くの」
ラスは近くの長いすに、自分の綴りを指で書いて示した。
一方のエスカは、まるで禁止事項の確認をされているようだと、苦笑しきりだ。
エスカは一度うなづき、そして一度首を振った。
ラスも首をかしげて、その動作を理解しようとした。肯定、そして否定だ。
「読めるけど……書けないの?」
エスカはほっとしてうなづいた。
「変だわそんなの」
ラスがふくらむが、エスカにはどうしようもない。
「名前が分からないんだから『黒いの』でいいわよね?」
もうどうとでもしてくれ、とエスカはうなづいた。
■間章■ 応募要項1
●募集人数
【1名】
決定後にキャンセルの場合、募集停止。キャンセル待ちは出来ない。
●応募条件
・応募時点で、5年以上、在校していること
・卒業に足る単位・資格を取得済みで、一年以内の卒業が決定していること
・在学中に、ステルラのスクロールを5つ以上獲得していること
・応募時点より遡って、1年以上、無遅刻無欠席であること
・応募時点より遡って、3年以内に罰則を受けたことがないこと
(異性寮への訪問や、信号無視なども含む)
・掃除当番・雑務・教師手伝いを、今までに半年以上継続して行っており、一度も欠席がないこと
■2■ …優しさは誰も…
「黒いの」は、数日前から教会に泊まっている留学生だと、出会った日の晩にラスは家族から聞いた。
留学して学ぶようなものがここにあるとは、ラスには全く思えなかった。
「ぐろーばる化」だの、「わんあーす思想」だののことは、テレビで見たことはあるが、ここは田舎すぎて、そういった情勢からは取り残された村だ。
この村は中世のころからほとんど変わらない生活をしてきて、来年も再来年も十年後もそれは変わらないのだろうと、ラスは思っている。
とはいっても、すこしずつ変わっていくこともある。人の仕事を機械が代わりに行うようになり、世代を経るごとに少しずつ豊かになっていて、……おかげで、「ひきこもり」が許容されるようになっていることとか。
……少しの期待と共に、ラスが今日も教会の礼拝堂へ向かうと、エスカは昨日と同じ椅子に座って、重そうな本に目を通していた。
「こんにちは」
ラスが声をかけると、本に集中していたエスカは驚いて、顔をあげた。
「何を読んでいるの? 見てもいい?」
構わずラスが向かいに座ると、エスカは大人しく開いた本のページを見せた。
見開きの片側を下半分使った挿絵は、ダ・ヴィンチの「受胎告知」だった。美術書だ。
エスカの左右には、似たり寄ったりの分厚さの本が、積まれている。
右の山の積み方がそろっていないのは、読み終わった方だからだ。
「何の勉強をしているの?」
ラスが聞くと、エスカは絵の天使を、指先で円を描いて示した。
「だったら、こんな田舎じゃなくて、山の向こうの町へ行けばいいのに。美術館だってあるし、大きな教会だってあるわ」
エスカは苦笑して、答えに変えた。彼ももちろん、そう思わないではなかったが、これも選択権がないことのひとつだった。
そんなこととは知らないラスは、何か事情があることを、誤解を多分に含みながらも汲み取った。黒人差別は、人類の恥ずかしい歴史のひとつだ。それがいまだに根強く残っていることも。
再び視線を文字に落として、ページをめくりはじめたエスカを、ラスはじっと観察した。
まず驚いたのは、エスカの読む早さだ。ナナメ読みではないことは、視線の動き方から大体分かる。
ただ、時々つっかえる時がある。そういう時、エスカは数ページを戻ったり、国語辞典をめくったりして拙く乗り越える。
「その場合はね。こっちの意味よ。取り違えると、文章がまるっきり変わってくるでしょ」
見ていられずにラスが手を伸ばすと、エスカはビクリと手を引き、それから困ったような笑顔で、両手のひらを合わせて、謝罪のジェスチャーをした。
「……清廉の誓いでもしてるの? 女に触られるといけないとか?」
気を害しながらも、理屈の通った理由が欲しくて、ラスはそう聞いた。
エスカは首を振り、続いてうなづいた。
少し気分を持ち直して、ラスは手を引っ込めた。誓いではないけど、触られるといけない事情があるらしいと理解したのだ。ラスのことが嫌いなのではなくて。
もう一度謝罪するエスカを見て、ラスは鷹揚にうなづいた。
「あたし、もう大人よ。そのくらいで怒ったりしないわ。無礼な態度は許してあげる」
それなら無礼ついでにと、エスカは辞書をひきよせ、ラスに向けた。
ページをめくって、順に指差す単語は、
『なぜ』『ではない』『あなた』『行く』『学校』『?』
ラスは、ドキリとして、それからラスが家族にエスカのことを聞いたように、エスカも神父に、ラスのことを聞いたのだろうと、思い至った。
「行ってるわよ。走って。でも、どうしてもあとちょっとで間に合わないの。……きっと、学校があたしを嫌ってるんだわ」
エスカはラスを見つめ、そして再び辞書をめくった。
『あなた』『できる』『勉強』『それ』『です』『非常に』『幸運』
『存在する』『多く』『人々』『希望する』『勉強』
『しかし』『彼ら』『できない』『行く』『学校』
「あたしだって、そのくらい知ってるし、周りの大人たちにも耳タコで言われてるわよ! でも、どうしても行けないの」
エスカは、黙って静かにラスを見つめた。
『どのくらい』『ない』『行く』『学校』『?』
「ずっとよ。……もう3年くらいかしら」
『いつ』『行く』『学校』『?』
「分からないわよ! たぶん、もうずっとないかもしれないわ」
エスカが、きゅっと眉をひそめ、悲しげな表情をするのを見て、ラスはいたたまれない気持ちになって叫んだ。
「そんな顔したって、できないものは、できないんだもの! あたしだって頑張ってる! 本当に頑張ってるのよ! でもダメなの! この世に黒い肌の天使がいないように、どうしてもダメなことって、あるんだわ!」
エスカは、再びラスを見つめ、ラスが居心地悪さのあまりに立ち上がろうとしかけた時に、ふっとうつむいて、右手の中指にはまった簡素な指輪を見た。
そして、膝から本をおろし、立ち上がった。
■間章■ 応募要項2
●滞在日時・場所の決定
・滞在日時・場所は、生徒の学習内容を鑑み、監査委員会が決定する。
・最大滞在日数は、1週間。
・決定は、出発の1ヶ月前に対象生徒に知らされる。
・現地の言語や文字、マナーや振る舞いは、その期間に自力で習得すること。
・決定が変更されることはない。
●滞在場所で厳守すべきこと1
・監査委員会に提出した学習目的から、逸脱しないこと。
・飲食は、委員会より支給されるものに限る。
・現地で保護者として指名される魔法使いの命令を遵守し、その保護区域を離れないこと。
又、保護区域内であっても、指定された建造物の半径50mより外へ出てはならない。
・生徒は、毎日20時に、一日に起こった全ての出来事を、音声以外の方法で保護魔法使いに報告し、保護魔法使いは、それを委員会に提出すること。
・現地時間の夜21時までに就寝し、朝9時まで指定された寝室を出ないこと。
■3■ …救えない…
「君は本当は、学校に行きたくないんだ」
まずはその声に、ラスは驚いた。
それから、話せるのに今まで黙っていたことに、そして最後に言われた内容に、ラスは怒りで真っ赤になった。
「行きたいと……思ってるわ!」
「いいや。思っていない。思っていて、行けないはずがない」
「思っているけど、行けないから、苦しんでるのよ! 思っていなかったら、苦しむはずがないじゃない!!」
「苦しんでいる自分が好きなんだ。だから、苦しんでいたいんだ」
「…………!!」
ラスはのぼせた頭が、急速に青くなっていく気がした。
ラスだって、心のどこかで分かっていたのだ。
「学校に行くラス」は、いくらでも取替えの効く、目立たない、どうでもいい娘だ。
だが、「学校に行かないラス」は、この村でたったひとりの娘だ。
皆が学校や教会で、つまらない朗読や書き取りをしている間、ラスは家で絵を描いたり、木に登ったりできる。
皆が早起きして眠い目で通学している間、ラスは昼まで悠々と眠っていられる。
皆が明日に備えて早く寝るような時間に、ラスは遠慮なく遊んでいられる。
ラスだけが。……ラスだけが。
「……、……、、」
何度か口を開けかけては、出来ず、ラスは悔しさと恥ずかしさに拳を握って、顔をそらした。
その時だ。
エスカは両手でラスの肩を強く握ると、膝を折って視線を合わせて来た。
「学校なんて、いつでも行ける」
「……」
「君が今、しなきゃいけないのは、目の前にいる、知ったかぶりで偉そうなことを言う異邦人を、言い負かすことだ。君が今後、本当に学校へ行くかどうかなんて、後で決めればいい。だけど、今、君のことを嘘つきよばわりして、決め付けようとする他人を叩き潰して、君の心を守ることは、絶対に譲ってはいけない」
「……!」
ラスは戸惑って、エスカを見た。
ラスはエスカの事情など知らない。エスカが何を諦めて、何を諦めなかったのかなど、分かるはずもない。
ただ、
「君は、学校へ、行きたくない」
エスカが改めてそう言ったのを、
「私は学校へ行きたい!!」
ラスは体中の力と、声の全部を使って、否定した。
エスカは黙って、うなづいた。
鳥が鳴いた。静かだ。ただ叫んだだけで、全力疾走したように切れ切れになっていた息を、ラスは深呼吸で戻そうとした。
「じゃあ、今から行こう」
「え? どこへ?」
「学校に決まっているだろう」
「……もう遅いよ。とっくに始まってて……」
「そんなこと、諦める理由にならない。したいと思った時が、できる時だから」
エスカは、自分の右手に左の手の平を当て、今更ながらにわずか、逡巡した。
だが、1秒と待たずにそれを振り切ると、簡素な銀の指輪を、一思いに引き抜いた。
起こった変化に、ラスが息を呑む。
エスカの背に広がったのは、人など余裕で包めそうな、大きくて真っ白い翼だった。
「俺が送ってあげる。行こう」
「黒……」
エスカは、ラスに手をのばしながら、首を傾げる。
「黒い肌の天使なんていないなんて、……言って、ごめんなさい」
エスカは少し目を開き、そして苦笑した。
「行っておいで」
どうしても鐘の音に間に合わなかった学校。
魔法にでもかけられたように、校門をくぐってしまったのは、つかの間の空中飛翔の興奮のせいだろうか。
だが、校舎の前で恐怖に駆られて立ち止まる。
振り向いたら、まだそこにエスカがいた。
一緒に来てくれたら、ここを入れるのにと、ラスは言いかけて、言葉を呑んだ。
子供扱いするなと、ラスはこの相手の前で見栄を張った。
いや、見栄ではないとラスは思った。
本当のことだ。ラスは、もう大人だ。保護者がいないと何も出来ないような、子供ではない。
この一歩を進めば、特別なラスはいなくなり、平凡なラスになってしまう。だが、そのことより、エスカに失望される方が、今のラスには嫌だった。
校舎の方へ向き直り、ぐっと腹に力を入れて、ラスは一歩を踏み出した。
■間章■ 応募要項3
●滞在場所で厳守すべきこと2
・委員会が指定した物以外の、いかなるものも、持ち込んではならない。
・委員会が許可した物以外の、いかなるものも、持ち出してはならない。
・生き物の殺生は、意図して行ってはならない。
・生徒は、指定された魔法具に、指定された変身魔法を込め、睡眠時や単独行動時も含め、常に現地人の姿を維持すること。
・魔法具は、生徒本人の魔力によって維持し、いかなる場合もはずしてはならない。
・その変身魔法以外の、いかなる魔法も使用してはならない。
・生徒は、現地でいかなる媒体にも、いかなる種類の文字も、記入してはならない。
又、本人の意思によるいかなる言葉も発してはならない。
・言葉以外の音声や、本人の意思によらないものについては、禁止まではされないが、可能な限り控えるものとする。
又、現地の映像保存機に映ることは、可能な限り避けねばならない。
・現地人には、魔法使いやソレンティア関係の一切を、知られてはならない。推測される行動も慎まねばならない。
・現地人との接触は可能なかぎり避け、肉体的接触においては一切行わないこと。
又、10人以上の現地人に、同時に観測されてはならない。
・やむなく現地人と遭遇した場合は、礼儀正しく振る舞うこと。
●罰則等
罰則等は設けられていない。
ソレンティアの生徒であり、魔法使いである以上、規則を厳守するのは当然であると規定する。
■エピローグ■ …か?
胸がいっぱいで、何から話したらいいか分からないままに、ただ、ラス・イリュガーは教会へ向けて走っていた。
教会の頂上が、夏の木の枝の間から見えてきた時に、教会の鐘の音が響いた。学校のそれとは違い、鈍いけれど落ち着く音だった。
今日一日、時間はあっという間に過ぎていった。
今朝くぐったばかりの教会の門へ、ラスは飛び込んだ
「黒いのいる?!」
ホウキを持っていたアリシエンテス神父は、驚いた顔をゆっくりと微笑みに変えた。
「いないよ」
「なんだ……いないの」
「学校はどうだったね?」
「どうして知ってるの?! 黒いのから聞いたの?」
「ああ、とても気にしてたよ」
ラスは、一息吸って叫んだ。
「もう最低最悪!」
「おやおや」
「授業はちんぷんかんぷんだし、教科書どころか、ノートも筆記用具までも、借りる始末よ!」
「ふむ」
「小太郎はやっぱり意地悪を言うし、イリューシャだって、あたしのことからかったわ! アスカは優しくしてくれたけども……あと、ティナスも、昔貸してたリボン、返してくれたけど」
「なるほど」
「本当に最悪だったけど……でも……」
「でも、何だい?」
ラスは、ちょっとまごついてから、横を向いていった。
「でも、明日も行くわ」
明日は行くわ、ではなくて。
「良かった。彼が、ここにいる権利を賭けただけのことは、あったようだね」
神父が何を言っているのか、ラスには良く分からなかった。
「ここにいる権利を賭けるって、どういうこと?」
「本当の姿を表しただろう、彼は。だから、帰らなければいけなくなったんだよ。元いたところに」
ラスは本当に、本当に驚いて、しばらく声を失った。
「黒いの、もういないの? 帰ってしまったの? ……次はいつ来るの?」
「もういないよ。そして、もう二度と来ない」
無情にも、神父はそう言いきった。
「……黒いのは……。天使様だったの? あたしを学校に行かせるために、遣わされてきたの?」
「……」
今までラスのどんな質問にも、すぐに答えてきた神父だったが、この質問には、珍しいことに少し考えたようだった。
「彼は、その為に遣わされたわけではないけれど……。君が無事に学校に行けたから、帰ったというのは事実だね」
「……じゃあ、あたしがこれからも学校に行き続ければ、黒いのがここにいた価値があるのね?」
「そう言えるね」
ラスは、なぜだかうるむ視界を床に落として、そして詰まる声で言った。
「だったら、あたし、これからも行くわ。一度だって休まないわ。そうしたら、黒いのにまた会えるかしら?」
「それは君次第だろうね」
ラスは、何度か深呼吸して、それからさりげなく袖で顔をこすって、神父を見上げた。
「今日はもう帰ります」
「よくお眠り。明日起きられるように」
「はい!」
罰則はなしとのことだったから、監査委員会にとっては、一時間立ちっぱなしで説教されることなど、罰則に当たらないということなのだろう。
エスカーラ・ヴェルデは、しびれる足と凝った首を回しながら、学科校舎に戻ってきた。
すると、クラスメイトの女子が入り口で、翼を広げて仁王立ちしていた。
「言っとくけど、あたし怒ってるんだよ。キミの行動、理解できないから!」
「……まあ、理解してもらえるとは思ってないけど」
どうやら、エスカのやったことについては、色々と筒抜けの様子だ。どこで知ったかなど聞くのはヤボというものだろう。なぜならここは、魔法学園なのだから。
肩をすくめてその横を通り過ぎると、彼女はチョコチョコと小走りに着いてきて、横から見上げてきた。
「ねえ、その子のこと、好きだったの?」
「違う。出会ったばかりの娘だったよ」
「だったら余計に理解できないよ! だって、どんなに願っても、許されない子がどれだけいると思ってるの? 好きでもない子のために、簡単に捨てられるなら、その権利、誰かに譲ってあげればよかったのに!」
最もな言い分だったが、エスカはそれを肯定するわけにはいかない。
「それとこれとは別の話だ。二度と出来なくて・今しなければならないことは何かと考えた結果、するべきことをして、そうじゃないことを捨てただけだ」
「そんな優しさは間違ってる」
エスカの返答は、バッサリ切り捨てられた。痛い所を突いてくるクラスメイトだ。
「治療幻惑科ではさ、優しさだけでは人を救えないと教わるだろう? でも、優しさだけで救えそうな時があったなら、行動しないのは勇気がないことだと思った」
「バカじゃないの。そんなこと言ってたら、命がいくつあってもたりないよ! 治幻科に必要なのは、勇気じゃなくて慎重さだよ。そして何重にも安全策をとることだよ」
口げんかにかけては、治療コースでは、幻惑コースにかないっこない。エスカは両手をあげて降参し、横を見た。
「もう終わっていて、変えようのないことで俺をいじめるのが、君の仕事なのか?」
「終わってないよ、キミの戦いは。……自主退学するって本気なの?」
そこで初めてエスカは、彼女が本当は、何に怒っていたのかを知った。
「皆を理解し守るのが、治療魔法使いの仕事だよ。そして、その治療魔法使いを守るのは、皆の仕事。……だけど、皆は治療魔法使いを、理解はできない。……できるのは、幻惑魔法使いなんだもの!」
「俺に言わせたがってる言葉が、やっと分かったよ」
彼女の、押し付けがましくてひとりよがりな親切に、エスカは苦笑した。
「助けてくれ。本当は退学したいわけじゃない。だけど、他の方法を知らないんだ。身勝手の責任を取らなければならないと思っているが……。自主退学以外に、方法があるならそれを知りたい。俺がどうしたらいいのか、教えて欲しい」
「最初からそう言えばいいのよ!」
身長の高いエスカを、アゴをそらしてまで強引に下目で見て、彼女は笑った。
■追章■
「我々は~~! 抗議するぅぅ~~~!!」
グラウンドの中央。
どこからか持ってきたみかん箱の上で、メガホンを持ったルーメペンナリアンが叫んでいる。
「治療幻惑科治療コース所属・ルーメ男子エスカーラ・ヴェルデが受けた処遇は、不適切であると主張する!」
当のエスカは、みかん箱の向こうで他人のフリをしようとするのに、熱中している。
が、みかん箱の上のルーメは、気にせずに主張を続けた。
「エスカたんに、許された権利【一週間の異世界学習】を羨み~! しかし、その困難な応募要項を知って諦め~! そして悔し紛れに祝福し~!
しかし! しかしながら!
女ごときにウツツを抜かして、その権利を諦めたエスカたんなんか~! タンスに足の小指をぶつければいいと思った生徒は~! 山ほどいると思われる~~!!!」
羞恥に耐え切れず、そのまま背を向けようとしたエスカの襟首に、みかん箱の上の人物は、先端がS状になった杖をひっかけた。
「だがしかぁぁぁし!!
自主退学というのは、重すぎる罰則だと思われる~!! なぜなら~! 応募要項の規約の、厳守すべきことの最後には、こう書かれている~!
すなわち!
【現地人と遭遇した場合は、礼儀正しく振る舞うこと。】!!
どうだろうか!!
エスカたんの今回の、アフォな所業は! この規約に従い~! 礼儀正しく振舞った結果だと考えられないだろうか~~!」
「そんな強引な」
振り下ろされる杖を、エスカは辛くも避けた。
「つまり!! エスカたんは! あくまで規約を守っていた! よって、放校処分には当たらないと~! ここに主張する~~~!!!
この主張に賛成する諸君は~! ここに署名してほしい~~~!!!」
そこまで言って、彼女はメガホンを顔から離すと、あたり一面にビラをばら撒いた。
困惑顔のエスカの上にも、ビラが何枚も降り注ぐ。
「身勝手な優しさは、人を救うのか! それとも自分を滅ぼすだけなのか! 諸君たち自身で、証明しようではないか~~~~!!」
--------------------------------------------------------------
Special Thanx!
この小説には、ソレンティアに実在する生徒の名前を使わせてもらっています。
使わせてもらったのは、名前だけで、それ以外の一切のものは関係ありません。
●ラス・イリュガー 主人公1
●エスカーラ・ヴェルデ 主人公2
■小太郎 エキストラ1
■イリューシャ エキストラ2
■アスカ エキストラ3
■ティナス エキストラ4
■アリシエンテ 神父
PR
カテゴリー
最新コメント
[09/23 かりょ]
[09/20 tayu]
[09/16 かりょ]
[09/16 tears]
[04/20 かりょ]
最新記事
(09/01)
(09/14)
(08/01)
(04/26)
(04/23)
ブログ内検索